旬の食材を使った前菜から、その土地ならではの伝統料理にアレンジを加えたメインディッシュ、季節感のあるデザートなど、多彩なレシピを提案する料理人、レイチェル・クー。レイチェルのレシピは家庭でも作りやすく、見た目も華やかで、料理への好奇心をかきたててくれます。
今年10月、DVD BOOK『レイチェルのパリの小さなキッチン』と、書籍『レイチェル・クーのスウェーデンのキッチン』の発売に合わせて来日したレイチェルにお話しを伺いました。
Rachel Khoo(レイチェル・クー)
1980年生まれ。イギリス・クロイドン出身。フランス、パリのル・コルドン・ブルーで製菓ディプロマを取得し、自宅のアパルトマンでレストランを開く。2012年に出版した初の著書『The Little Paris Kitchen(パリの小さなキッチン)』は、全英ナンバーワンベストセラーに。その後BBCのシリーズ番組として放映され、世界150ケ国以上で放映される。2016年、結婚を機にスウェーデンに移住。現在はスウェーデン人の夫と子どもと暮らす。日本では、2016年3月よりNHK Eテレにて「レイチェル・クー」シリーズが放送されている。
「人生で何をやりたいか」を探していたパリでの8年間
―フランス菓子の情熱から、仕事を辞め、単身パリへの移住を決意したレイチェルさん。小さなアパルトマンでの「2名限定」のレストランをオープンするという試みはおもしろく、旬の素材を使った多彩なメニューの数々もとても魅力的でした。パリで過ごした8年間、レイチェルさんにとってどのような時間となりましたか?
レイチェルさん:パリでの時間は、「自分の人生、何をしたいのか」を探していた期間でした。それまでは、ロンドンでファッションPRの仕事をしていたので、全く異なるジャンルの世界に飛び込んだわけです。パリに来て、「食」を仕事にして、自分に何ができるかを模索していましたね。
同時に、目一杯パリを楽しんだ時期でもありました。たくさんの人に会って、新しい街に行き、経験を積んで、友達とダンスして、パーティをして、ピクニックをして…(笑)。たくさんの「楽しい!」を見つけました。
―レイチェルさんの「楽しい!」は映像化された『パリの小さなキッチン』のあちこちから感じることができました。パリの食文化の印象はどのようなものでしたか?
レイチェルさん:新鮮な食材を売っている「マルシェ」と呼ばれる市場が、週に1〜2回、どの地区でも催されます。私が通っていたのは、自宅から歩いて5分の距離にある市場。週3回開催されていて、野菜も果物もチーズも魚も…とにかくなんでも揃います。
私が育ったイギリスのクロイドンは、郊外に位置していて、そこにも市場はあるんですが、パリの市場ほどではなく、食材の種類の多さと開催頻度には、引っ越した当初はとても驚きました。
料理の「アレンジ力」は母親ゆずり
―敷居が高いように思えるフランス料理を、家庭でも簡単に作れることを教えてくれたレイチェルさん。素材の組み合わせの発想や新しいレシピ作り、アレンジなどのインスピレーションの源はどこにあるのでしょうか?
レイチェルさん:発想を豊かにするためにも、「外の世界に出て刺激を受ける」ということを常に意識しています。人に会ったり、レストランに行ったりする中で料理のヒントを見つけることもあれば、料理や食べ物から離れて、のんびりお風呂に使ったりお茶を飲んだりするときに閃くこともあります。
私の料理のルーツは母から来ています。母はオーストリア人、父は中国系マレーシア人です。イギリスに住んでいたので、母はそこで手に入る食材やスパイスをうまくアレンジしながら、オーストリア料理やマレーシア料理を作っていました。私のアレンジ力は母の料理を身近に感じていたからかもしれませんね。
―料理作る上で大切にしていることはなんですか?
レイチェルさん:料理を作る「Cooking(クッキング)」と、パンやケーキを焼く「Baking(ベイキング)」では意識していることに大きな差があります。
料理では、自分の予算で手に入る旬の素材を使って何が作れるか、素材の魅力を活かす方法は何かを考えるんです。例えばトマトだったら、夏の太陽の光をたっぷり浴びたトマトの甘さを活かすにはどう調理するのが良いかを意識します。
ケーキやパンを焼くときは、すごく良いレシピを探すことと、材料を吟味することが大事。レシピ通りに作ることも「Baking」の基本ですが、私はそのレシピにプラスワンのアイデアを加えることが多いです。
でも何より、料理は楽しまないと!私もたくさん失敗するけれど、失敗を恐れないでトライすることが一番大切だと思います。
家族の協力を得ながらのスウェーデン生活
―スウェーデンへの引っ越し、結婚、出産というライフステージの変化は、どのような影響をもたらしましたか?
レイチェルさん:今までの生活スタイル、全てが変わったの!子育て中の家庭料理はとにかく時短。「quick(クイック)!Fast(ファスト)!」が基本です(笑)。
それから時間が限られているので、「何に重点を置くべきか、何を優先すべきか」を常に考えるようになりました。子どもが生まれる前の私はほとんどワーカホリックという状態で、仕事が大好き!やりたい企画のためなら、休日も夜中でも働くという気持ちでした。
今も変わらず仕事が好きでハードにこなしているけれど、今は子どもとの時間を意識するようになりました。「今、本当にやるべき仕事、私がやりたい企画」を注意深く考えて選んでいます。
理解のある夫と義理の母も力になってくれていて、今回の来日も彼らの支えがあって実現できました。周囲の協力を得て、育児と仕事に向き合っています。
―2016年にスウェーデンに移住されて約3年が経ちましたね。スウェーデンの食文化は、パリと比べてどのような印象ですか?
レイチェルさん: 華やかで伝統的なフランスの食文化に対して、スウェーデンの料理は、シンプルでミニマム、そして家庭的。
ここに住み始めて初めて知った素材もたくさんあります。例えば「スウェーデンクネッケ」というカリカリとした食感のパン。スウェーデンのスーパーマーケットでは、中央に穴の空いたまるでレコードのような形状で売っています。
片面はボコボコしていて、もう片面はつるっと滑らか。ボコボコの面にバターを塗ると、凹んだ穴の部分にバターがぬり込められるから、バターをたくさん使うことに。スウェーデンでは「どっちにバターを塗るかでその人の性格がわかる」と言われていて、平らな方にバターを塗る渡す人は「節約家」もしくは「ケチ」なんて言われたりするみたい。私は穴の空いた方にたっぷりバターを塗って食べるけどね(笑)。
それからスウェーデン人はハーブのディルが大好き。とにかく何にでもディルが入っています。私のレシピにもディルの登場回数が増えたかも(笑)。
―スウェーデンに移住した直後、名店「フェーヴィケン」に期間限定で働くなど、チャレンジする姿勢を絶やさないレイチェルさん。今後の予定や、挑戦してみたいことはありますか?
レイチェルさん:直近では、Amazonとの協働で、フードサステナビリティ(持続可能な食料システム)に焦点を当てたジャーナリズムの仕事が始まっています。それからイギリス人の私が、ウィーンに行ってスウェーデン料理を紹介するという企画も進行中です。
将来的には新しいレシピ本を出したいけれど、テーマは未定。レシピ本を考案するには、インスピレーションも時間も必要。私にとって本は赤ちゃんと同じ。時間と愛情をかけて育てていくものなので、時間をかけて考えてみたいです。
TV番組の制作にも挑戦したい。これまでは出演側だっただけど、今度は企画や演出側にも携わってみたい。やりたいことはたくさんあるけど、いずれにしても、「今、一番素晴らしい生き方ができている!」と未来の私に誇れる自分でいたいと思っています。
レイチェル・クーのスウェーデンレシピ
今回はレイチェルさんの『レイチェル・クーのスウェーデンのキッチン』から特別に2つのレシピも教えていただきました!
【焼きリーキ入りホイップバター】
日本ではあまり馴染みのないネギのようなお野菜リーキを使った「焼きリーキ入りホイップバター」。インタビューにも登場したスウェーデンの食卓の定番「クネッケクラッカー」とも相性抜群です。
『レイチェル・クーのスウェーデンのキッチン』p.24 焼きリーキ入りホイップバター
【ゆで卵とアンチョビのサラダ(グッブローラ)】
ハーブをよく使うスウェーデン料理。ディルの風味がアクセントの「ゆで卵とアンチョビのサラダ」のレシピです。
『レイチェル・クーのスウェーデンのキッチン』p.33 ゆで卵とアンチョビのサラダ(グッブローラ)
- ■最新刊&DVD情報
- 『レイチェル・クーのスウェーデンのキッチン』
- 発行:世界文化社
- 発売日:2019年10月9日
- 定価:2,200円(税別)
- 内容/スウェーデンに移り住み、子育てをしながら、北欧料理を学んできたレイチェル。現地でよく使われる、おいしくて体にいい野菜や穀類をはじめ、スパイスやハーブ類の使い方を紹介。
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- DVD BOOK 『レイチェルのパリの小さなキッチン』
- 刊行:世界文化社
- 発売日:2019年10月9日
- 定価:3,400円(税別)
- 内容/レイチェル初の著書『パリの小さなキッチン』が番組化され、BBCで放送された大人気シリーズの第 1 弾がDVD BOOK化。レイチェルの料理の原点ともいえる作品。
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