ワインテイスト飲料のパイオニアにして日本市場シェアNo.1*ブランド「ピエール・ゼロ」を販売する「シャヴァン」のCEO、マチルダ・ブラシャンさん。フランスでも著名な起業家と伺い、ちょっと緊張して待っていた取材陣の元に現れたのは、笑顔が素敵でとてもチャーミンなフランセーズ!
子育てと並行してゼロから会社を立ち上げるようなパワーは、一体どこから生まれるのか。仕事への情熱や軽やかな生き方の秘密を伺いました。(*「主要ノンアルコールワイン販売実績」『酒販ニュース』2026年4月21日より)
マチルダ・ブラシャン
シャンパーニュ地方出身。2010年にピエール・シャヴァンを創業(現在の社名はシャヴァン)。根っからのワイン好きで、妊娠期間中にワインを飲めなかった経験から、ワインの特性を保ちながら脱アルコール化するという発想に至り、ワイン大国フランスで初となる本物志向のワインテイスト飲料ブランド『ピエ―ル・ゼロ』を立ち上げる。現在では60か国以上で愛されるブランドに成長。革新性と包括性を兼ね備えた、この分野のパイオニアとして活躍中。
Instagram : @pierrechavin_fr
FaceBook : Mathilde Boulachin
自分が美味しいと思える、本格的な脱アルコールワインを作りたい
-脱アルコールワインを作ろうと思ったきっかけを教えてください。
マチルダ・ブラシャンさん(以下、敬称略):スウェーデンに5年間滞在して帰国後、2010年にワインの仕事を立ち上げました。家族代々のワイナリーもブドウ畑もない、ゼロの状態からのスタートでした。その後すぐ妊娠したのですが、私はワインが大好きなんです……妊娠期間中ジュースや水だけで過ごすなんて考えられない!(笑)これがきっかけになって「ワインを脱アルコール化してみたら」というアイデアが生まれました。
-ワイン大国フランスで、しかも15年以上も前に思いついたのですよね?
マチルダ:そうですね。でも、考え進めるうちに、妊娠中の女性だけがターゲットではないと気づきました。私が暮らしたスウェーデンは飲酒運転にとても厳しいんです。日本もそうですよね。こういった国々のドライバーのニーズは大きいです。
さらに視野を広げると、高齢者、アスリート、宗教上の理由、健康上の理由、若い世代、お酒をたしなまない人など、実は多様な消費者層とニーズがあることが見えてきて、これはイケると思いました。確かに当時のフランスでは、え?という感じだったかもしれません(笑)
創業時、私の頭の中にあった事はただひとつ、「革新を生み出し、消費者のニーズに応えること」でした。ですから迷いはありませんでした。
-現在、世界のアルコール飲料市場は縮小傾向です。日本では、ノンアルコールビールやモクテルはどこに行っても見かけるようになりました。
マチルダ: ワインテイスト飲料は、もはやニッチな市場ではありません。ワイン消費全体が減少傾向にある中で、その流れに寄り添う成長分野となりました。私たちは、高品質な選択肢を提供し、「適切に楽しむ」という新しいライフスタイルを支えていると思います。
起業した直後に妊娠・出産
-会社を立ち上げた時期と、出産・子育ての時期がほとんど同じですが、どのようにして両立させたのでしょう?これは日本人女性が知りたいところです!
マチルダ:長女は2010年、次女は2012年に生まれました。長女は会社と同い年なので、創業何年かすぐわかります(笑)。正直なところ、ちょっと大変でした。会社をゼロから立ち上げることも子どもを育てることも、それぞれが大きな挑戦ですから。
でも、子どもが小さいうちは意外とまとまった時間が取れます。娘たちが寝ている間に仕事をするといった風に、子どもの生活リズムに合わせて仕事をするようにしました。こういった時間の積み重ねは馬鹿になりません。
-時間の使い方が上手なんですね。
マチルダ:ポイントは時間管理、そしてやると決めたらすぐにやる、という機敏さでしょうか。週末も働きましたし、休みもあまりありませんでした。でも小さな子どもがいるうちは、そもそも遠出などあまりしませんよね。
最初は大変でしたけど、子どもは小さいままではありませんし、次第に会社も成長して、時間をかけて採用した仲間たちに仕事を任せられるようになりました。
-娘さんたちは14歳と16歳ですね。
マチルダ:大きくなりましたが、まだ親が必要な時期です。常に彼女たちの事を考えていますし、娘たちもいつでも私を頼れるんだと信頼してくれています。同時に、母親が仕事で忙しいことも理解してくれています。
子どもが親に求めるのは、ただ一緒に過ごす時間ではなく、心から向き合う「質の高い時間」ではないでしょうか。我が家は時間の許す限り一緒に旅行をして、新しい世界や文化に触れるようにしています。日本にもいつか必ず連れて来ますよ!
親が生き生きと輝いている姿は、子どもにとって大きな刺激
-私もマチルダさんみたいなお母さんがよかったです(笑)
マチルダ:私は母親であることが大好きですが、家にずっといるのは苦手です(笑)。学び続けたい、旅をしたい、刺激を与えてくれる人々と出会いたい、何かを創り出し、自分自身や社会に価値を生み出したい、そういう思いがあります。
それこそが私自身を成長させ、幸せにする。そして、その幸せの一部を娘たちに届けることにつながっていく。親が生き生きと輝いている姿を見るのは、子どもにとって大きな刺激になりますよね。その輝きは、充実した仕事を通じて生まれると思うのです。
-多くの国で、女性は仕事をしながら家庭との両立を実現していますね。
マチルダ:5年間の北欧での生活は、この点で大きな影響を与えてくれました。でもおっしゃる通り、無理なく両立するには、家庭内での役割分担や協力体制が欠かせません。
私は、女性が経済的に自立していることは、自由であり続け、誰かに依存しないためにも必要だと考えています。そうやって初めて、真の対等な関係が実現します。人として成長していく上でも、とても重要なことです。
子どもにも「努力しなさい」「粘り強くありなさい」と言葉で教えるより、親自身がその姿を見せることの方が大切だと思うんです。娘たちは、私の言葉ではなく、私の行動を通してそうした価値観を学んでくれていると思います。
-でも日本では、働くお母さんたちはちょっと大変な印象があります。
マチルダ:とてもよくわかります。私も自分が選んだキャリアの道が険しいものになることは、最初からわかっていました。それでも、安易な道を選び、不満を抱えながら生きるより、自分が信じる道を歩む方がずっといい。何かを得るためには、どうしても努力が必要です。ここまで大変ではありましたが、今、私は母親としての自分にも、経営者として成長した自分にも、大きな誇りを感じています。
日本は、お気に入りの出張先
-ボンジュールフランスの「ディネ・グルマン」のゲストとして既に3回来日。お仕事も含めて日本に来る事は多いですか?
マチルダ:日本は決して近い国ではありませんが、それでも毎年一度は来るようにしています。日本は私のお気に入り出張先のひとつなんです。
日本の皆さんは思いやりがあり、勤勉で真面目、そしてプロフェッショナル。とてもキチンとしていて、多くの大切な価値観を持っていると感じています。
-うれしい言葉、ありがとうございます!ビジネス面でフランスとの違いを感じることは?
マチルダ:日本でビジネスをするということは、「品質」に250%の力を注ぐことだと感じています。日本の方々は細部へのこだわりを非常に大切にしていますから。
組織の階層や意思決定のプロセスによっては、物事が進むまでに時間がかかることもあります。でも一度信頼関係が築かれれば、そこには他の国では見られないような誠実さと長期的な信頼関係が生まれます。
-確かに前例がないと、時間がかかる事が多いかもしれません(苦笑)。
マチルダ:一般論として言うなら、フランス人の方が創造性や大胆さにおいて少し優れているかもしれません。私たちは文化や伝統、あるいは社会の目に縛られすぎることなく、新しいことに挑戦するのが好きなんです。
街角の小さなお店でも美味しい!日本の食文化にいつも感動
-日本社会や文化について、どんな印象をお持ちですか?
マチルダ:世界の国々と比べて日本をどう評価しますか?と尋ねられたら、迷わずこう答えます。
「日本という国、文化、料理、そして現代性と伝統が見事に調和した独特の魅力が大好きです。そして何より、この国の価値観に深く共感しています。」
仕事とはいえ、何度も日本を訪れる機会に恵まれているのは、本当にラッキーです。素晴らしい方々との出会いにも恵まれ、訪れる度に新しい発見があります。
特に食文化は、毎回感動の連続!そのバラエティの豊かさに驚かされています。街角の小さなお店でも素敵な食事を味わえます。本当に今まで一度もがっかりしたことはないんですよ!
忙しい仕事の合間を縫って、大好きなビックカメラに行ったと満面の笑みのマチルダさん。「だって日本と言えばハイテクじゃない?(笑)」袋の中は、娘さんたちへのお土産の携帯扇風機と自分用のコンパクトカメラ。「1日だけオフがあって、上野公園と浅草寺に行ったのよ。日本は自然が綺麗で、みんな礼儀正しく、Zenな雰囲気が好きなんです。北欧とちょっと似てるかもしれませんね」
マチルダ:以前、新幹線に携帯電話を置き忘れてしまいました。当然もう戻ってこないと思いました。でもちゃんと紛失物として届けられて、しかも、東京のホテルまで届けてもらえたんです!こんなことが可能なのは日本だけです!
言葉が通じなくても、いつも助けようとしてくれる。私は日本にいると安心感を覚えます。毎回、滞在期間が短すぎるのが残念でならないのですが、もっと時間をかけて、この国が持つ奥深い文化に浸ってみたいと、いつも思っています。
社名に隠された驚きの理由とは?
-未経験の分野への参入は、困難が多かったのではないでしょうか。
マチルダ:困難は山のようにありましたが、最大の困難は、長い歴史と伝統を持つワイン業界で女性だったことです。しかもイノベーションと国際展開という旗を掲げながら、この保守的な世界で挑戦し続けなければなりませんでした。
-日本もだいぶ変わってきましたが、世代や分野によっては男性中心で保守的な業界はまだまだ多いです。
マチルダ:そういった状況では対立しても意味はありません。周囲から真の評価や信頼を得るには、期待を上回る成果を出すことです。だからこそ、人と違う存在であり、ときには誰よりも優れた結果を出す必要があります。でも常に謙虚さを忘れてはいけません。
-未経験分野への参入する上で、一番大事なことは?
マチルダ:他と違う存在であること、大胆さと粘り強さも重要です。他人が何と言おうと気にしない、失敗を恐れない。人間は歩けるようになるまで3000回以上転ぶそうですから、起業もまさにそれと同じです。まずは陰で地道に忍耐強く、強い気持ちを持って努力し続ける必要があります。
何世紀にもわたって築かれてきた文化や慣習を一気に変えることはできません。私たちにできるのは、着実に成果を積み重ねること。そうすることで、少しずつ受け入れられ、人々の見方は必ず変わっていきますから。
実はフランス国内だけでなく海外でも、難しい状況に直面することがありました。それこそが、創設時に会社を「ピエール・シャヴァン(Pierre Chavin)」と名付けた理由なんです。
16年前、男性の名前を掲げた会社でなければ、ワイン業界で信頼を得るのは難しかった。「ピエール・シャヴァン」という人物は実在しません。
-えっ!そうなんですか?
マチルダ:「シャヴァン」という名字は私が考えました。「シャネル(Chanel)」を思わせる響きを持たせることで、ワインの世界にラグジュアリーなイメージを重ねたかったんです。当時は、男性の名前を借りることで得られる「正当性」が必要だったので、「敢えて」そうしました。今は社名にPierreの名はありません。必要がなくなったので、自然に消えていきました。
-それまで培ってきた人生経験、他分野での経験でも、役に立ったことはあります?
マチルダ:どんな分野のどんな経験でも、どこかで必ず役に立ちます。例えば私の人生は、仕事、家族、旅、スポーツ、読書、そして人との出会いで成り立っています。どれも私の人生を豊かにし、成長させてくれる大切な要素で、切り離すことはできません。それらすべてが一つになって、今の私を形づくっていますから、私にはこのすべてが必要なのです。
私たちを縛っているのは、自ら設けてしまった「思い込み」という壁
-企業のトップや管理職として働く女性、ゼロから起業しようと目指す女性に向けて、是非メッセージをお願いします。
マチルダ:私たち女性は新しいチャレンジをする時、こんな事を考えがちじゃないですか?「私は若すぎる」「男じゃないから難しい」「経験が足りない」でもね、こうした考えは、結局のところ自分自身がつくり出している「言い訳」に過ぎないんです。
実は、私たちを縛っているのは自ら設けてしまった「思い込み」という壁です。
だからこそ、まず変えるべきなのは世界ではなく、自分自身の物事のとらえ方です。周囲のせいにするのではなく、「不可能なことなど何一つない」と信じること。そのためには、自分自身との対話が大切です。周囲に理解や評価を求める前に、まず自分が自分自身を信じること。そうすれば、必ず壁を乗り越えることができます。
-MBLで活躍する日本の有名な野球選手が「先入観は可能を不可能にする」と同じ事を言っていました。「言い訳」や周囲のせいにしないというお話、ハッとさせられました!
マチルダ:共感してもらえてうれしいです!障害ばかりに目を向けるのではなく、自分が成し遂げてきたこと、成功体験、そして日々の小さな前進に目を向けましょう!すべては可能です。その力は、一人ひとりの中に備わっています。成功は性別によって決まるものではありません。成功を左右するのは能力や専門性、そして人としての在り方です。
-マチルダさんとお話していると、パワーが湧いてきます。最後に、今後の展望をお聞かせください。
マチルダ:「シャヴァン」をさらに成長させ、脱アルコールワインの分野で世界を代表するブランドにすることです!それには、販売網の拡大、重要市場での事業強化、新たな国・地域への進出、イノベーションを継続しつつ、新商品の開発も進めなくてはなりません。特に新市場の育成には、広報活動が必須です。これからも脱アルコールワインの存在と価値を、世界中に発信していきます。
うれしいことに、「ピエール・ゼロ」は既にミシュランの星付きレストラン、高級ホテル、飛行機、クルーズ船など、さまざまな場所で提供されています。ですが、挑戦したい場所はまだまだたくさんあります。可能性の限界を押し広げること、それが私が目指すところです。
-現状に満足せず、努力し続ける姿勢に感動します!具体的な短中期目標はありますか?
マチルダ:一つ挙げるなら…「ピエール・ゼロ」は、先月7月14日に東京の在日フランス大使館で開催された祝賀レセプションで提供されました。次は、フランス大統領が迎賓するエリゼ宮の食卓を飾りたいですね!
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7月14日の祝賀レセプションにはご自身も招待され、「現在の駐日フランス大使は女性だし、日本の経済大臣も女性よね(片山さつき氏)、レセプションでお見かけしたわ。女性は有能なのよ、頑張りましょう!」と笑顔でお話してくれました。
■マチルダさんが手がける、シャヴァン「ピエール・ゼロ」シリーズ
文:PARIS mag編集部
撮影:株式会社LIFE.14
