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    10種類以上の小麦粉を巧みに使い分け。“小麦粉マニア”の店主が焼き上げるパンやお菓子と出会える下北沢『boulangerie l’anis』

    下北沢駅から徒歩でおよそ10分、緑道近くの住宅街に昨年オープンした『boulangerie l’anis(ブーランジェリー・ラニス)』。近所に暮らす方々を中心にファンの多いこの店は、パティスリーやフレンチレストランでの経験を持つ店主・原昇吾さんならではの、ふらっと訪れても必ずおいしいものが見つかるパン屋さんです。

     

    パティシエを志しフランスへ。その後パンに夢中に。

    原 昇吾(はら しょうご)さん

    東京の製菓専門学校を卒業後、フランスのパティスリーで1年間お菓子づくりの修業をしていたという原さん。日本へ帰国後、荻窪にあるフランス菓子と惣菜の店『Le Coeur Pur(ル・クール・ピュー)』や広尾の『ベーカリー&レストラン 沢村』など、数々のお店で経験を積みました。

    「もともとはパティシエ志望だったのですが、『ル・クール・ピュー』でパンの担当になったのをきっかけに『パンって面白いな』と思うようになりました。料理について学ぶためにフレンチレストランで働いていたこともあります。その店は自家製のパンを提供していたのですが、パン作りの経験があった僕はわりと自由に好きなパンを作らせてもらっていました。いくつかの店で働いた後、最終的に自分で何を始めようかと考えたときに、お菓子の要素も料理の要素も取り入れられるパン屋をやりたいなと。それから本格的にパンについて学んだのですが、中でも『沢村』が僕にとって大きな影響になりましたね」。

    マドレーヌやフィナンシェなど、自家製の焼き菓子の販売も

    そんな原さんが自らのお店を始める場所として選んだのは世田谷区代沢。

    「もともとは東急東横線沿いのエリアで探していたんですが、不動産屋さんが偶然この物件を見つけてくれて。三軒茶屋に住んでいたことがあったのでこのあたりの土地勘はあったし、何より落ち着いた雰囲気を魅力に感じてここに決めました」と話します。

     

    風味や食感を表現するために小麦粉をブレンド

    お店では1日に約40種類のパンをラインナップ。自らを“小麦粉オタク”と称する原さんは、国内やフランス、ドイツから集めた11種類の小麦粉を1つのパンに3〜4種類ブレンドして使用しています。小麦の香りや風味を存分に味わえる食パンやバゲットは、数あるパンの中でも特に人気なのだそう。

    「まずは、それぞれの小麦粉の個性を知るために、1種類の小麦粉に水と酵母と塩を加えた最低限の材料でパンを焼いてみます。それを自分で食べてみて味や食感を確認した後、1つ1つの個性を組み合わせるんです。『もう少しモチモチさせたいからこれをちょっと混ぜてみよう』とか。小麦は時期によって味が変わるため微調整が必要で、まるで毎日実験をしているような感覚ですね。もちろん手間はかかりますけど、効率的にやろうとするのではなく、完成度を高めることを第一に作っています」。

    小麦本来のおいしさを最大限に活かすために、バターや砂糖など、他の材料の分量はあえて控えめに。タルティーヌなどに使う野菜は旬のものを取り入れるよう心がけていて、「このパンを作りたいからこの野菜を仕入れよう」ではなく「この野菜が旬だからこれを使った料理を作ろう」という方法でレシピを考えているそうです。「おいしい素材に出会って初めて創作意欲が湧くんです」と原さん。

    サンドイッチなどの食事メニューも充実。バゲットにハムとバターをサンドした「ジャンボンブール」や自家製パテの「パテサンド」も人気

    定番人気のクリームパン。たっぷり詰まった固めのクリームが、ふわふわ柔らかいパンと相性抜群

    食事系のパンのほか、クリームパンやミルクスティックなどの甘いパンも人気です。

    「パティシエ時代の経験を生かして、フィリングにもこだわっています。僕はお酒が効いたコテコテのフランス菓子が好みなので、クリームパンのクリームにはラム酒をたっぷり入れてコクを出しました。トロトロではなく固めに焼き上げて、卵の風味を楽しんでもらえるようにしています」。

    リピーターの多い食パンはモチっと柔らかい食感が魅力。そのまま食べるのはもちろん、野菜や卵を挟んでサンドイッチにしても◎。歯切れの良いバゲットは、シンプルにバターと一緒に食べるのがおすすめだそう。横にスライスして冷たいバターをのせて食べれば、小麦の香りがより一層引き立ちます。

     

    目指すのは「食のセレクトショップ」

    明るく洗練された雰囲気の店内。照明や器など、細かい部分にまでこだわりを感じます

    オープンして約8ヶ月。近隣の方々を中心にファンが増え始め、毎日のように買いに来てくれる常連さんも少なくないそう。「パン屋は地域密着型」と話す原さんは、できる限り焼きたてを味わってもらいたいと食パンは半斤から販売。「最近はパンがどんどん贅沢品になってきている気がするのですが、本当はもっと日常的な存在であるべきだし、毎日買って毎日食べられるものでありたいんです」と価格もなるべく低めに設定しています。

    「僕は食全般が好きなので、ゆくゆくは食べ物のセレクトショップのような店を目指しています。自分で作ったパンとお菓子、惣菜はもちろん、自分がおいしいと感じたチーズやバターを揃えて、お客さんと相談しながら『このパンにはこのチーズがいいですよ』と提案したりして。何を買うかが決まってなくても、この店に来ればとりあえずおいしそうなものがあると思ってもらえる店にしたいんですよね。今はまだ難しいですが、店内にイートインコーナーを作ってコーヒーやワインとのペアリングを楽しめるようにしたいとも考えています。フランスの街角にある惣菜屋さんには小さなイートインスペースがあるお店も多く、そこで安いワインと一緒に軽く食事ができるようになってるんですけど、そういう空間にできたらなって」。

    「その日の気分で食べたいものを手に入れられる、“食を楽しむ場”にしたい」と語る原さんは、小麦粉マニアのパン職人でありながら食全般への強い興味と愛情を持つ、まさに「料理人」。ぜひ一度お店へ足を運んで、『boulangerie l’anis(ブーランジェリー・ラニス)』が発信する食の楽しさを体験してみてはいかがでしょう?

     

    • ■お店情報
    • boulangerie l’anis(ブーランジェリー・ラニス)
    • 住所:東京都世田谷区代沢3-4-8 RAIROA 1F
    • 営業時間:12:00〜20:00
    • 定休日:木・金曜日
    • https://www.instagram.com/boulangerie_lanis/

    ※記事の内容は取材当時のものです。 最新の情報は、お店のHP、SNSなどをご確認ください。

     

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