PARISmagが気になる方々へ会いに行き、「小さなしあわせ」のヒントを教えてもらうインタビュー企画。今回のゲストはNHKのフランス語番組「旅するフランス語」に出演されている女優の常盤貴子さんです。パリでの撮影時の思い出やフランス語の勉強について、そして春に出演される舞台とドラマについてのお話も伺ってきました。
常盤貴子(ときわ たかこ)
神奈川県出身。1991年デビュー。次々に主役、ヒロインとしての出演が続く。代表的出演作には、テレビドラマ『愛してると言ってくれ』、2000年1月から放送され記録的な視聴率を樹立した『ビューティフルライフ』、大河ドラマ『天地人』、『TAROの塔』、連続テレビ小説『まれ』。映画 香港映画『もういちど逢いたくて〜星月童話〜』、『赤い月』、『野のなななのか』、『だれかの木琴』。舞台 KERA・MAP『砂の上の植物群』、『マクベス』、『8月の家族たち』など。
フランス人の思考を理解しないとフランス語はわからない
—現在放送中のNHKの「旅するフランス語」に出演されていますが、撮影はいつごろされたのですか?
常盤貴子さん(以下、常盤さん):去年の6月くらいに3週間くらいかけて撮影しました。今回から番組がリニューアルして、フランス語、イタリア語、スペイン語、ドイツ語のヨーロッパの4言語で、それぞれ実際に街に出てその言葉を使ってみようというものに変わりました。半年分を3週間で撮りきるということだったので「プチ留学みたいでいいな!」と思ったんです。でも、もともと会話することが好きだったことやスタッフと仲良くなったこともあり、アレもやりたい、コレもやりたいってやりたいことが増えてきて(笑)。そんな流れで「ナレーションやるなら自分でやったほうがいいんじゃない?」って言っちゃったんです。当初3週間撮りきりの予定が、今も月に1度ナレーションの収録をしています。
でも、それで結果的に1年近くフランス語に携わってきていますが、その中で思ったのが、フランス語なんて3週間やそこらで身につくものではないということ。フランス人のあの複雑さを見ればわかりますけど、フランス語はそんな簡単に習得できる言語ではありませんでした。1年近く勉強してきて、やっとフランス語の入り口に立てたかなという感じがしています。
—実際にフランス語を勉強してみて難しかったところはどこですか?
常盤さん:難しいところだらけですね。Rの憂鬱からはじまって…全部難しいですね。あの複雑な思考回路の人たちがなぜこの言語を話しているのかということが、すごくよく理解できます。この思考回路だからあの言語、この言語だからあの思考回路ということがようやく理解できるようになりました。
—なるほど。単純に言語を勉強するだけでなく、フランス人のマインドも学んでいるような感じなんですね。
常盤さん:マインドを理解しないと、フランス語はマスターできないですよね。例えば数字の考え方とかもそうじゃないですか。70くらいから「なにこれ!」ってルールになるんですよね(笑)。
でも、語学だけを学ぶのではなく、マインドも含めて学ぶという意識でいるとおもしろいです。ややこしければ、ややこしいほど、「でも、おもしろい!」と燃えますね。
刺激的な出会いを体験したフランス撮影
—番組では観光スポットから現地の人が知っているような穴場まで、いろいろな場所を訪れていますよね。実際にパリに行く際に訪れてみたくなる場所ばかりでした。
常盤さん:番組の最初の打ち合わせのときから、見た人が次のパリ旅行のときにガイドブックのようにテキストを持って行けたり、次の旅行がしたくなるような番組にしたいよねと話していました。実際、旅番組として楽しんでいる方も多いみたいです。
—パリを訪れた際の楽しかったエピソードがあったら教えてください。
常盤さん:パリはどこでも楽しいですよね。今回は特に、すごい方々にたくさんお会いすることができました。イヴ・サン・ローランを長年支えてきたベルジェさんという方にもお会いすることができました。今年イヴ・サン・ローランのミュージアムがオープンするというタイミングがあったから実現できたことだったんですけど、そんな伝説的な方にお会いできる機会なんて、なかなかないことなのでうれしかったです。そしてそれを視聴者の方にもお伝えすることができましたし、番組を見た方が今度サンローランのミュージアムを訪れた際にその言葉を思い出してくれたりしたら…って想像するとすごく夢が膨らみます。
*イヴ・サン・ローランの美術館は2017年秋オープン予定。
—それはすごく貴重な体験ですよね。訪れてみて思い出に残っている場所はありますか?
常盤さん:オペラ座の内部を見せてもらったりもしました。ナショナルのオペラ座は地下6階まであるんですよ!あの放送はやっぱり、私の周りの舞台に携わっている方たちはすごく喜んでくださいました。オペラ座の制作の現場を目の当たりにできたということに「勉強になる〜」とみんな興味津津でしたね。
—蚤の市の回もありましたが、常盤さんご自身もアンティークのアイテムがお好きなんですよね?
常盤さん:一期一会的な出会いがあるので、アンティークは好きですね。アンティークは雑貨だけじゃなくて、家も家具も車も洋服も全部好きなんです。それをミックスさせながらアレンジしたりするのは楽しいですよね。
ホテルと朝食を楽しむパリ
—今回の撮影以前にも、フランスには何度も足を運ばれているんですよね?普段はパリを訪れた際はどんな風にして過ごされているんですか?
常盤さん:私、ホテルがすごく好きなんです。前に2週間ひとりで行ったときは、毎日違うホテルに泊まっていました。その日、遊びに行ったときに気になるホテルがあったら、その場で「明日の予約空いてますか?」って予約して、次の日に「昨日予約したものです」って言って泊まるというのを毎日やっていました。
—それはすごいですね!ホテルの内装やインテリアが好きなんですか?
常盤さん:そうですね。かわいいから楽しいし、自分の部屋のインテリアで真似しようというアイデアをもらったりしています。
あと、朝食も大好きなんです。三食の中で朝食が一番好きです(笑)。いろいろなホテルで朝食を食べて「ここのホテルの朝食が1番おいしい!」というのを自分の中で決めるのが楽しいです。
「ここクロワッサンはおいしいけど、バゲットはあっちの方がおいしいな」っていうのを勝手に言うのも楽しいです。
フランス人の芸術の捉え方に感動
—その過ごし方いいですね。何度も訪れているとのことですが、常盤さんから見てフランスってどういうイメージなのでしょうか?
常盤さん:おしゃれだし、雰囲気がいいというのはありますけど、人はいけず*だな〜ってずっと思っていたんです。でも、今回行ってみたら、ちょっと違うなという感覚がありあました。長く滞在したからなのか、私自身が大人になってマダムとして認められたからなのか理由はわかりませんけど、20代、30代で行ったときとは明らかに違いました。
*意地が悪いこと
—そうなんですね。
常盤さん:そういえば、こんなこともありました。フランス人の通訳の方が、周りの人に私を紹介するときにずっと「日本の有名なコメディエンヌ」というように紹介していたんです。まあ、いいか…と思っていたんですけど、最後の方に「私、コメディアンではないんですよ…」と、日本でいうコメディとして解釈して言ったんですよ。
そしたら、フランスでは映画に出る女優さんはアクトリース、舞台もやる女優さんはコメディエンヌと言って全然違うものなんだと教えてくれたんです。舞台に出る女優さんは身体表現を使って演じたり、その時代背景をみんなで考察したり、役柄に対してもすごく深く考えて、ひとつのアートをみんなで作り出すというところで、コメディエンヌの方が、芸術性が高いと捉えられているみたいで、どちらも素晴らしい仕事ではあるけれど、アクトリースとコメディエンヌは全然価値が違うらしいんです。フランス人に紹介するときに「アクトリースです」より「コメディエンヌです」と紹介する方が「わ〜おっ!」と芸術家としての尊敬が加わるみたいで。
それで私が舞台経験もあるということで、あえてコメディエンヌという言葉を選んでくれたみたいなんですよ。とても深いな〜と思いましたね。
—すごいですね。芸術の分野がそれぞれ確立しているフランスだからこその考え方なのかもしれませんね。
常盤さん:フランス語講座でも紹介しましたが、映画の世界を取ってみても、ミニシアターの人たちがちゃんと想いを持っているんですよね。ひとつの監督の作品を上映するにあたり、その監督の前の作品も上映して周りの人たちを盛り上げるんですよ。そういうストーリーの流れもすごく感動的だな〜と思いました。そんな想いで映画を上映してくれるシアターがあったら、訪れる人たちもその支配人の想いを応援して行きたくなりますよね。フランスは文化としての映画の見方がつながっているんだなと思って、文化レベルの高さを羨ましく感じました。
挑戦的な舞台「王将」への意気込み
—先程、舞台のお話もありましたが、間もなく舞台「王将」への出演も控えてらっしゃいますよね。かなり挑戦的な舞台だとお聞きしていますが…。
常盤さん:そうなんですよ。80席しかない小さなところでやるんですが、3部作で。私は1部と3部に小春という役で出演します。「王将」は50年以上前から上演されていて、歴史のある舞台なんですけど、「王将」が好きな方々にとって小春はすごく大切な存在なので、その方たちの想いを崩さないように演らなきゃと思っています。小さな劇場に観劇に来るお客様は想いが強い方も多いと思うので、しっかり勉強して挑まなきゃなと。
「王将」も知れば知るほど、奥が深いと言うか、深すぎるので(笑)。それをどれくらい役に投影するかも考えつつ、みんなでいろいろと話し合いながらという感じですね。小さい劇場だからこそ、大きな劇場よりも深くみんなと話し合えるんじゃないかなと思っています。今回は商業的な舞台ではなく、それぞれの想いで集まってきているようなものなので。同じ想いのもと集まっている俳優さんたちと同じ時を過ごせるのは、私自身の人生にとっても「事件」だなと思います。
—常盤さんは、舞台はもちろん、映画やドラマでも活躍されていますよね。先ほどのアクトリースとコメディエンヌの違いではありませんが、演じる側としてそれぞれの違いはあるのですか?
常盤さん:違いますね。でも、なにが違うかというと私もうまく説明できないんですが、単純に映像と舞台だと体を使う使わない、呼吸を意識するしないの違いはあります。それをはっきり「ここがこう違う」と言えるほどはまだ経験できてはいないけれど、ずっとずっと探している感じです。
—これから挑戦してみたいことはあるんですか?
常盤さん:そうだな…。挑戦してみたいことのひとつに王将のような舞台はありました。ずっとTPT(theatre project tokyoの略)とか好きだったんですよね。森下にあるTPTの劇場へ行ったりもしていました。本当に小さな倉庫みたいな劇場なので、お客さんがすぐそこにいて、その中で俳優さんの息遣いがすごくリアルに聞こえて。俳優さんが近過ぎてお客さんが怖くなるような距離感だったんですけど、今回は、それを体験できるんです!やってみたかったことのひとつに挑戦できるのはとっても楽しみです。
—稽古はこれからですよね?春からはドラマ「やすらぎの郷」もスタートしますよね。
常盤さん:稽古はこれからですね。ドラマはもうずっと撮っているんですけど、倉本聰さんが脚本の老人ホームのお話です。それこそ憧れていた銀幕のスターさんたちが勢揃いした錚々たるメンバーの中で演らせていただいています。私、女優オタクというか女優さんが大好きなんです。渋谷の「シネマヴェーラ」とか「神保町シネマ」といった名画座が好きでよく行くんですけど、そういう作品に出ている銀幕のスターさんたちが目の前にいて、自分と一緒にお芝居をしているという状況に毎日感動しています。すごく幸せです。
—女優オタクなんですか!先ほどからお話を伺っていると、好きなものをすごく熱中して好きになられるんですか?
常盤さん:そうですね。好きなことしか見えてこない!みたいな。ある程度、お仕事もやってきたし、いつなにがあるかもわからないから、好きなことをやっていきたいなとは思っています。
猫と戯れる時間、本で旅する時間がしあわせ
—ドラマや舞台など忙しい毎日を送っているかと思うんですが、忙しい毎日の中でも大切にしている時間はあったりしますか?
常盤さん:猫を2匹飼っているので、猫と戯れる時間ですかね。思わぬことをしてくるので、すごく驚くんですが、学ぶこともありますね。
あと、旅行もよく行きます。最近国内が気になっているんですよね。あと、まだ南仏に行ったことがなくて、今度行けそうなので、それは楽しみです。パリとは食べ物も違うし、人もより陽気って言いますよね。楽しみです。
—最後になりますが、「小さなしあわせ」について教えていただければと思います。
常盤さん:本を読むのが私の小さなしあわせですね。別の世界を旅している感じが好きです。なので、小説が多いですね。エッセイも読みますが、エッセイだと別の人の旅に自分が乗っかる感じですが、小説だとポンと自分がそこの世界に飛べる感じが好きなので。小旅行というか。普段は小説で小旅行をして、ときどきは本当に旅に出る感じですね。
海外に行くときは、その土地を舞台にした物語を読んだり、その土地の作家さんの作品を読んだりもします。旅行に行ってもあまり観光名所を周るタイプでもないので、好きなカフェを見つけたら、そこで本を1冊読みきるまでいることも珍しくないです。「日本で読めばいいじゃん」と言われるかもしれませんが、いいんです。それがしあわせなんです。
これを読む!というのはあまりないので、そのとき出会った本の中で読みたいものを読みます。どれを読むか選ぶ時間も楽しい時間ですからね。
常盤さん、素敵なお話どうもありがとうございました!
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- ■舞台情報
- 新ロイヤル大衆舎「王将」
- 作:北條秀司
- 構成台本+演出:長塚圭史
- 音楽:山内圭哉
- 出演:出演:福田転球、大堀こういち、長塚圭史、山内圭哉 / 常盤貴子、江口のりこ、森田涼花、弘中麻紀 / 大東駿介、櫻井章喜、陰山泰、高木稟、さとうこうじ、金井良信、古河耕史、石田剛太、原田志、池浦さだ夢
- 上演期間:2017年4月27日(木) ~ 5月14日(日)
- 会場:下北沢・小劇場 楽園
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