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    仲野太賀さんの日々の暮らしと小さなしあわせ

    PARISmagが気になる方々へ会いに行き、「小さなしあわせ」のヒントを教えてもらうインタビュー企画。今回はNHKの大河ドラマ『いだてん』での小松勝役も記憶に新しい俳優の仲野太賀さんです。

    2月7日公開の映画『静かな雨』で衛藤美彩さんとW主演を務めた仲野さん。映画では足に障害のある研究生・行助(ゆきすけ)として、衛藤さん演じる“たいやき屋”のこよみとの日々を繊細に演じています。行助を演じる上でこだわったこと、毎日を少し幸せに感じられる秘訣など、さまざまなお話を聞いてきました。

    仲野 太賀(なかの たいが)

    1993年生まれ。東京都出身。2006年に俳優デビュー。
『バッテリー』(2007年)、『桐島、部活やめるってよ』(2012年)、『あん』(2015年)などの話題作に出演。TVドラマ『ゆとりですがなにか』(NTV)でのゆとりモンスター山岸役、『今日から俺は!!』(NTV)での今井勝俊役が話題に。近年は『南瓜とマヨネーズ』(2017年)、『母さんがどんなに僕を嫌いでも』(2018年)、『タロウのバカ』(2019年)などの話題作へ次々と出演している。

    日常のささいな喜怒哀楽を繊細に描く

    ―今回の映画では、不慮の事故で記憶を失うこよみに寄り添う行助という青年を演じられましたが、この役にはどんな思いがありますか?

    仲野さん(以下、敬称略):行助は右足が不自由で足を引きずって生活をしています。それは彼にとってコンプレックスだろうと思うんです。そのコンプレックスを抱えながら生きてきた行助がこよみと出会うわけです…。コンプレックスを抱えた人間って、他人の痛みみたいなものに敏感なんじゃないかなと考え、そういう他人の痛みにそっと寄り添えるような人間を演じられたらいいな、と思って演じました。

    ―映画を拝見したのですが、穏やかな空気の中にも情熱や優しさを感じました。演じる上でどういったことを一番心がけましたか?

    仲野:行助は20代半ばから後半の役なので、これまでにも恋愛はしてきているはずです。こよみとの出会いがどう行助に影響を与えたのか…。“こよみ”という人と出会って、この2人だからこそ始まる何かが特別でありたいと考えましたね。

    そういった意味で、細やかなことにとても繊細に反応していきたいと思っていましたし、一番気をつけた部分でもあります。「こよみが作ってくれたたい焼きがおいしい」とか、逆に「嫌いなブロッコリーが入っていた」だとか、そういう些細なことに喜怒哀楽があって、それがスクリーンを通して伝わるといいですね。

    ―実際に完成した映像を見て、ご自身はどう感じましたか?

    仲野:この作品には宮下奈都さんの美しい原作が元になっているので、その核を大事にしています。一方で映画として作るには、いろんな要素を入れていいような気がして、監督の中川龍太郎君とはいろんなお話をしました。塩谷大樹さんが撮影した映像はすごく綺麗ですし、出ているキャストの方もすごく個性豊かで素敵な方々でした。それを高木正勝さんの音楽が包んでくれて…。中川監督の才能というものが刻まれた作品になっています。今までの中川龍太郎作品のなかでもちょっと異色な映画になっているんじゃないかな。その作品で演じられたことは本当に光栄なことでした。

    ―映像と音楽の美しさがとても素晴らしかったです。特に印象的なシーンはありますか?

    仲野:印象的なシーンはそうですねぇ、どれも本当に綺麗だなぁと思っています。作品の世界観を明確に塩谷さんがくみとってくれたので、どのシーンもため息が出るくらい美しいですね。全体を通して美しい作品に仕上がっています。

     

    役者とスタッフがとことん話し合って生まれたシーン

    ―毎朝こよみは、同じことを繰り返すわけですが、演じるうえで難しかった点はありますか?

    仲野:衛藤さんが想像以上に“こよみ”でいてくれたし、衛藤さんともたくさんコミュニケーション取れたんですよね。一緒にお昼ご飯食べたり、2人きりの時間もあったし、それは“行助”と“こよみ”にとってすごく大切な時間でしたね。

    衛藤さんは人見知りしない方で、コミュニケーション能力が高くて、衛藤さんが現場に来るとふわっと明るくなるんですよ。スタッフさんにもすごく気遣いのできる方なので、むしろ僕がそのほんわかした空気に包みこんでもらった気がします。

    しかも僕は役に没頭する瞬間もあったので、衛藤さんが作ってくれた雰囲気には本当に助けてもらいました。

    ―監督ともかなりコミュニケーションを取られていたそうですね。

    仲野:クランクインの前に話す時間をたくさん設けてもらいました。撮影日数が限られていたので、撮影前に始まる前に2人の考えをとことん話し合ったんです。この作品をどういう風にするか、よりいい方向に一歩先に行けるようにするにはどうすればいいのか?ということを監督含め、制作の東京ニューシネマのスタッフ、撮影現場のスタッフともたくさんディスカッションすることができました。それはとても豊かな時間でした。

    ―そのディスカッションの内容が、最も映像として表現できているシーンはどこですか?

    仲野:うーん…、こよみと行助が村上淳さんを追いかけ、2人の距離がグッと縮まったシーンかな。あの一連のシーンや台詞のやりとりはみんなで考えました。行助がこよみに惚れる理由はわかるけれど、こよみがなぜ行助に惚れるのか?

    物語の展開がとてもシンプルだからこそ、2人の考え方や心の変化をすり合わせていく作業はすごく丁寧にやりました。

     

    年を重ねるからこそ増すもの、失うもの

    ―今回の映画は記憶がキーワードになる映画ですが、仲野さんにとって忘れたくない記憶や大切な思い出はありますか?

    仲野:学生時代の友達との時間は、本当に忘れたくないですね。当時から役者をやっていましたけど、まだ駆け出しだったし“芸能人”という感じでもなく、とにかく自由がそこにはあった気がして…。あれから時間が経ち大人になりましたけど、あの頃の“身軽な感覚”っていうのは忘れたくないですね。

    今年で26歳になりますが、たまに学園ものの作品で学生を演じることがあるんですよ。リアルになればなるほどちょっと怖さが出てきて、青春の青さみたいなものを自分の体を通してやることに限界があったりするんですよね。気づいたら自分の中がどんどん研ぎ澄まされてしまっているんですよ。自分自身の人間的な成長によって、なくなっていったものがどんどん大きくなってきていることに最近気がつきました。

    大人になることで得られることもたくさんあるけど、どうしても青臭さが薄まってしまう…。1回なくなっちゃうとどうにも戻せないものの方が結構尊かったりしますよね。

    ―では仲野さんが役者としてもっとも大切にしていることなんですか?

    仲野:実際に大切にしていることで、これからも大切にしていきたいことなんですけど、演じることというのはフィクションですが、自分が演じている瞬間は真実でありたい。演じているときの嘘を少しずつ消していきたいんですよね。フィクションの中にも宿る真実というものは絶対あるので、それを大事にしていきたいという思いはありますね。とはいえ、できていない時もあるんですけどね(苦笑)。

     

    食べて、観て、寝る!

    ―日々の小さな幸せを感じられる映画でしたが、仲野さんにとっての日々の小さな幸せとはなんですか?

    仲野:ごはん(笑)!

    ―ごはん!それは食事自体のことですか?それとも時間?

    仲野:僕は料理が全くできないんですよ。だから全てが外食。口コミサイトとか抱きしめるように使っていますし、やっぱりいろんなところに行きたい。おいしいものを食べたい(笑)!

    ―映画でもたい焼きをすごくおいしそうに召し上がっていましたね(笑)

    仲野:食べるのが好きなんですよね〜。うまいもの食べているときが幸せです!

    好きな食べ物はいろいろありますけど、カレーは日常的に食べるので、幸せを感じるというよりは“取り憑かれている”という感覚の方が近いかな。もう修行みたいな感じ(笑)。あと、生牡蠣食べているときはすごくドキドキしますね。

    ―それはどういう意味でしょう!?

    仲野:「あたったらどうしよう〜!」というドキドキ(笑)。でもそのスリルと同時にものすごいうまさがあるんですよ。そのうまみにスリルが孕んでいる感じがたまらないんですよね。しかも牡蠣って「生き物食ってるわー」っていう感じがするじゃないですか。 “ブリン!”っていう食感、あれがうまくて…。

    だから今の時期は「生牡蠣あります」って書いてある看板見るとギクっとなるんですよ。で、結局「やばい!俺今、牡蠣に試されてる?明日大丈夫だよな?俺風邪気味じゃないよな?いっちゃう?」って、体調を確認しながら食べちゃう(笑)。

    ―この季節おいしいですもんね(笑)。食べること以外ではどんな時間が大切ですか?

    仲野:睡眠(笑)。ただの怠け者みたいですね。でも人生の1/3は睡眠ですからね。それを考えると、今までは睡眠を疎かにしすぎていましたね。ただでさえめちゃくちゃ寝るタイプなんですけど、もっと睡眠を大事にしようと最近思うようになりました。環境、特に寝具にはこだわるようになりました。

     

    自分の想像を超える役に出会いたい

    ―撮影などで忙しい毎日だと思いますが、どうやってリフレッシュしていますか?

    仲野:最近行けてないけど、サウナですね。“サウナー”なんですよ。

    独特なサウナ文化が好きなのと、自分の心が解放されていく感じも好きですね。あと、必然的に携帯電話からも離れるので、ストレスフリーなのもいい。サウナ中はデジタルデトックスできるんですよ!

    ―以前、写真を撮るのもお好きとお話されていましたが、今も撮っていますか?

    仲野:はい、撮っていますね。フィルムの大きなカメラなので、余裕があるときじゃないと撮れないので、今回の映画を撮影している間は結構いっぱいいっぱいで、現場にカメラを持ち込んでシャッター切る事はできませんでしたね。

    でもオフの日は、天気がよければ近所の公園に行って撮影しています。結構移り気なんですが、カメラは唯一長続きしている趣味ですね。

    ―最後に、今後どんな役、お仕事に挑戦したいですか?

    仲野:今までやったことがないような役に出会えた時、自分の中で広がるような何かを感じるんですね。それって自分が考えていた「こうありたい。こういう役やりたい」という思いとは全く違うところからくる引き出しだったりするんです。宮藤官九郎さんが脚本を書いた『ゆとりですがなにか』の山岸役もそうでしたけど、やっぱりそういうそれまでの自分とは違う角度の役と出会いたいですね。

    自分が「こういう役やれるだろうし、できるだろう」と思っているのとは全く違う、自分自身も知らなかった自分を引き出してくれる人と出会いたいし、一緒に仕事がしたいです。もうなんだかんだ、あと数年で30代に入ってしまうので、20代だからこそ残せる作品をちゃんと残していい30代を迎えたい。そのためにどうするか?ということを漠然と考えています。

     

    太賀さん、素敵なお話どうもありがとうございました!

     

    • スタイリスト:石井大
    • ヘアメイク:高橋将氣

     

    • ■映画情報
    • 映画『静かな雨
    • 仲野太賀 衛藤美彩
    • 三浦透子 坂東龍汰 古舘寛治 川瀬陽太 村上淳/ 河瀨直美 / 萩原聖人 / でんでん
    • 監督:中川龍太郎 脚本:梅原英司 中川龍太郎 原作:宮下奈都『静かな雨』(文春文庫刊) 音楽:高木正勝
    • 制作:WIT STUDIO  Tokyo New Cinema 企画協力:文藝春秋 配給:株式会社キグー
    • ©2019「静かな雨」製作委員会 / 宮下奈都・文藝春秋
    • 2019/日本/カラー/99分/スタンダード/5.1ch デジタル
    • https://kiguu-shizukana-ame.com/
    • 2020年2月7日(金)シネマート新宿他全国順次ロードショー

     

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