PARISmagが気になる方々へ会いに行き、「小さなしあわせ」のヒントを教えてもらうインタビュー企画。今回は11月1日に公開する映画『ビブリア古書堂の事件手帖』で、秘密の関係ながら惹かれ合う絹子と嘉雄を演じた夏帆さんと東出昌大さんです。
映画についてのお話はもちろん、物語の鍵となっている本について、そして忙しい日々の中での息抜きや小さなしあわせについてもお話を伺ってきました。
嘉夫と絹子のピュアな初恋
−田中嘉雄さんと絹子さんの関係が、危うさもありながらもロマンチックでもあると感じたのですが、お2人はその関係をどのように捉え、演じたのかを教えてください。
夏帆さん(以下、夏帆):私は初恋だと思って演じていました。絹子は夫がいますが、おそらくお見合い結婚なんですよね。なので、ちゃんとした恋愛というものは嘉雄がはじめてなんだろうなということは監督ともお話ししました。
2人があまりにもピュアなので、最初はどうやって演じたらよいか…とも考えたのですが、初恋の初々しさだとか、純粋な気持ちというのをちゃんと大事に演じたいとは思いました。
東出昌大さん(以下、東出):嘉雄も初恋だったんだろうと思います。この時代の物書きを生業にしている男性なので、若いうちから遊びに連れて行ってもらったりしたことはあったと思いますが、本当の意味で女性を愛したのは絹子がはじめてだったんだろうなと思いました。
クランクイン前に三島監督から、「なるべく夏帆さんとの時間を共有してください」ということを言われていて、食事に行ったり、撮影中も別室で2人で時間を過ごしてから本番に入るようにしていたんですよね。黒木華さんや野村周平くんの現代パートとは完全に切り離された撮影だったので、本当に2人の物語だと思って演じていましたね。
−ちなみにお2人でどんな話をされていたんですか?
夏帆:この作品についてのお話をしていました。あと、何か話さなきゃと思って、すごいどうでもいい話もしていましたね。
東出:「話すこともないですね」なんて言いながら、2人で体育座りしながらぼーっとしたり(笑)。それも2人で時間を過ごすという意味ではよかったのかな。
夏帆:三島さんはそういう人との関係性や空気感をすごく大切にされる方なので、そういう時間があっての2人の距離感にはなったのかなと思いますね。
−撮影で思い出に残っているシーンはありますか?
東出:今回、万年筆を使ったんですが、「田中嘉雄は太宰治に憧れているから、こういう万年筆がいいな」というイメージがあったんです。そしたら、なにも注文していないのに、太宰治が使っていたエバーシャープという年代物の万年筆を持ち道具担当の方が持ってきてくださって!
他にも、嘉雄が書いているという設定の本『切通し坂』もちゃんと作品になっていて、すごい持ち道具担当の方の力でより世界観が広がったなというのがあります。物書きの役でしたが、自分ひとりではできない部分も広げていただいてありがたかったです。
本を通じて気持ちを伝える
−嘉雄と絹子が2人で隠れて会っているとき、本を一文節ずつ読んでいくというシーンがありました。とても素敵なシーンだと思ったのですが、撮影はどのような感じだったのでしょうか?
東出:三島監督は現場でもかなり役者の近くにいる印象がある方で、役者の気持ちの整理を優先してくださるんですよね。かといってすべてを任せるということでも、手取り足取り教えるということでもないんですけど。横に寄り添ってくれる感じがするので、2人のシーンではあるけど、いつも横に三島監督もいるという感覚で、3人のシーンだったような印象です。
夏帆:三島監督がいつもモニターから私たちの演技を見ていて、うれしそうな顔をしていたのが印象的でしたね。それを見ているのが、私もうれしかったです。
でも、本を読み合うなんて今までしたことがなかったので、ちょっと恥ずかしい気持ちもありました。今回の作品は全体的にそうで、私としてはスイッチを入れないと気持ちを持っていけないというか、恥ずかしくなってしまうというのはありましたね。だからこそ、できあがったものを観て、そのピュアな初々しい感じがよかったなとは思いました。
東出:そうですね。本を読み合うって気恥ずかしくもありますが、嘉雄は絹子さんにかなり惚れているという気持ちの中でやっていたので、充実したいい時間だったなと思います。幸せな時間でした。本当に近年稀に見るピュアな役だったな。
夏帆:私も完成したものを観て、こういう役ひさしぶりにやったなとは思いました。でもこの作品ならではですよね。そうやって本を読み合うことでお互いの関係が近づくというのは。すごく素敵なシーンだと思いました。
−東出さん、夏帆さんにとって大切な1冊があったら教えてください。
東出:僕は、子どもの頃に読んだ『サンタクロースってほんとにいるの?』という絵本ですね。アメリカの新聞社が子どもの夢を壊さずに理路整然と新聞記者ならではの言葉と視点で答えるというものなのですが、それがすごく好きです。
夏帆:では、私も子どもの頃の本で。昔、クラッシックバレエを習っていたんですけど、その教室に『うさぎがくれたバレエシューズ』という絵本が置いてあって、すごく好きで、親にねだって買ってもらったんです。たまに今でも読み返すんですが、当時のことを思い出してきたりして、すごく好きな1冊です。
−映画の中で嘉雄が絹子のために本をセレクトしてあげるというシーンがありますが、すごく素敵だなと思いました。
夏帆:いいですよね。本のプレゼントって一番うれしいかもしれない。
東出:そうですね。その人となりを知る上でも本のプレゼントっていいと思います。それが別に好きな異性でなくても、本を勧めてもらうというのは好きですね。ただ…嘉雄は紙一重だな…と。太宰治、太宰治…ですからね(笑)。
夏帆:絹子でよかったですよね(笑)。でも、自分が普段読まないジャンルでもおすすめしてもらうのはうれしいです。
−逆に本をプレゼントしたことってありますか?
夏帆:いただいたことはあるけど、贈ったことはないかもしれないです。恥ずかしくてできないかも…。私、人の本棚見るのすごく好きなんですけど、自分のは絶対に見られたくない(笑)。
東出:僕も「贈るぞ!」って思って、贈ったことはないかもしれない。家で飲んでいて、本の話になって「じゃあ、うちにあるの持っていきなよ」って渡したりはします。「まずは1巻読んでみて」と渡すこともあって…。
司馬遼太郎作品だと全何巻とかになるので『坂の上の雲』も『竜馬がゆく』も『峠』も1巻上巻がうちにはないんです(笑)。
日々の暮らしと小さなしあわせ
−小説を書くという苦悩の中にいる嘉雄と日々の生活に追われる絹子にとって、2人でいる時間というのが、息抜きというか、自分が自分でいられる時間なのかなと感じました。東出さん、夏帆さんにとって、忙しい日々の中で息抜きやリフレッシュになる時間があったら教えてください。
東出:僕は友達とお酒を飲んだり、将棋指したりする時間ですね。あと、キャンプに行くのも好きですね。
夏帆:私も友達に会う時間がなんだかんだ一番の息抜きになりますね。なんでもない話ばかりしていますが(笑)。あと、最近猫を飼い始めたので、家に帰って猫と戯れる時間が一番癒されます。
−今回のお話は2冊の古本が鍵になり、お2人の物語へつながっていく物語でしたが、古本など古いものにはそういう物語が秘められているのかもしれないとワクワクする気持ちが湧いてきました。お2人はそういう古いものに魅力を感じることはありますか?
東出:僕はそれこそ万年筆が好きです。古い万年筆は現行の万年筆とは違ったいい書き味で、名品と呼ばれるものが結構あるんですよね。そういうものが好きで買うんですが、インクがボタボタとたれてきたり、古いからこその不具合もあったりして(笑)。
夏帆:私は古着が好きですね。日頃から探しています。古着は一期一会なので、気に入ったものでサイズも合うとうれしいですし。
東出:服って溜まっていきませんか?
夏帆:溜まっていきますね。なので、人にあげるようにしています。家にものがたくさんあるのが嫌なので、手放すようにしています。東出さんはどうしていますか?
東出:僕は身長が190cm近くあるので、あげられる人があまりいないんですよね…。なので溜まる一方で、どうしよう…!となっているところです(笑)。
−最後に東出さん、夏帆さんの小さなしあわせを教えてください。
夏帆:おいしいものを食べているときですね。私は和食か中華が基本なので、その中でおいしいものを食べているときがしあわせです。
東出:さっきの夏帆さんのものを手放すという話ではないですけど、「ものを増やさない」という決断をしたときですかね。
たとえば、もう少し小さい鍋を買おうかなと思っても、「大きいのあるからいらないか」と増やさない選択や代用を考えついたりするとしあわせを感じますね。ものが増えるとどうしてもそれなりにストレスが増えるのでね。
■映画情報
すべては一冊の本をめぐる祖母の遺言から始まった―。
鎌倉の片隅にひそやかに佇む古書店「ビブリア古書堂」。過去の出来事から本が読めなくなった五浦大輔(野村周平)がその店に現れたのには、理由があった。亡き祖母の遺品の中から出てきた、夏目漱石の「それから」に記された著者のサインの真偽を確かめるためだ。磁器のように滑らかな肌と涼やかな瞳が美しい若き店主の篠川栞子(黒木華)は極度の人見知りだったが、ひとたび本を手にすると、その可憐な唇からとめどなく知識が溢れだす。さらに彼女は、優れた洞察力と驚くべき推理力を秘めていた。栞子はたちどころにサインの謎を解き明かし、この本には祖母が死ぬまで守った秘密が隠されていると指摘する。それが縁となって古書堂で働き始めた大輔に、栞子は太宰治の「晩年」の希少本をめぐって、謎の人物から脅迫されていると打ち明ける。力を合わせてその正体を探り始めた二人は、やがて知るのであった。漱石と太宰の二冊の本に隠された秘密が、大輔の人生を変える一つの真実につながっていることを―。
原作:三上延『ビブリア古書堂の事件手帖』(メディアワークス文庫/KADOKAWA 刊) 出演:黒木華 野村周平/成田凌/夏帆 東出昌大
監督:三島有紀子 脚本:渡部亮平、松井香奈 © 2018「ビブリア古書堂の事件手帖」製作委員会
配給:20世紀フォックス映画、KADOKAWA
映画『ビブリア古書堂の事件手帖』 11月1日(木) 全国ロードショー
東出昌大(ひがしで まさひろ)
1988年2月1日生まれ、埼玉県出身。『桐島、部活やめるってよ』(12)で俳優デビューし、同作で日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞。NHK連続テレビ小説「ごちそうさん」(13)で一躍ブレイク、エランドール賞新人賞にも輝いた。近年の主な出演作に、『OVER DRIVE』(18/羽住英一郎監督)、『パンク侍、斬られて候』(18/石井岳龍監督)、『菊とギロチン』(18/瀬々敬久監督)、『寝ても覚めても』(9月1日公開/濱口竜介監督 ※カンヌ国際映画祭コンペティション部門選出)などがある。また3年ぶり2作目の舞台となる三島由紀夫原作「豊饒の海」に主演が決定している。
夏帆(かほ)
1991年6月30日生まれ、東京都出身。2007年公開初主演映画『天然コケッコー』(山下敦弘監督)での透明感溢れるヒロイン役が高く評価され、日本アカデミー賞新人俳優賞はじめ数々の映画新人賞に輝く。近年の主な出演作に、『箱入り息子の恋』(13/市井昌秀監督)、『海街diary』(15/是枝裕和監督)、『伊藤くんA to E』(18/廣木隆一監督)、『友罪』(18/瀬々敬久監督)などがある。来年公開映画『きばいやんせ! 私』(19年公開予定/武正晴監督)では主演を務める。
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